ラサール石井と声優・田中真弓が、2021年8月25日放送のTOKYOFM『TOKYO SPEAKEASY』に出演。知られざる声優世界の裏事情について語った。
2人は、海外ドラマ『名探偵ポアロ』の熊倉一雄(エルキュール・ポアロ)、アニメ『ルパン三世』の山田康雄(ルパン三世)、納谷悟朗(銭形警部)らが所属した劇団テアトル・エコーの養成所出身。石井は1期生で田中は3期生という先輩後輩の間柄にあたる。
元々、石井は早稲田大学ミュージカル研究会、通称『ミュー研』に所属。演劇に関わりたいと思い、しかし俳優より作家が向いてるかなと思いつつ、俳優への未練があった大学2年生の頃に、養成所の募集があり、俳優への見切りをつける思いもあってオーディションを受けたところ、合格。だが後で聞いた話では、受験者全員が合格だったという。
また、募集要項には講師の欄に劇作家・井上ひさし、落語家・古今亭志ん朝の名前があったが、どちらも現れなかった。井上は劇団といざこざが起き、辞めて去ったという。
石井の同期には、NHK『おーい!はに丸』の馬のひんべえの声などを担当し、今年3月に亡くなった安西正弘、アニメ『ちびまる子ちゃん』(フジ)の2代目友蔵の声などを担当する島田敏がいる。
その後、2期生として渡辺正行と小宮孝泰が入所し、2人でコントをやっていたところを見て面白いと感じ、仲に入れてもらいコント赤信号が結成された。
そして3期生として入所した田中真弓は、俳優座や文学座、青年座などほぼ全ての有名劇団を受験するがことごとく落ち、テアトル・エコーに合格。石井によると、当時テアトル・エコー養成所は各劇団のオーディションの中で、最後の方に行われているため、他の劇団に受からなかった人が入ってくるそうで、渡辺と小宮も文学座や俳優座を受けて落ちて来ていた。
テアトル・エコーには声優が多かったため、声優育成に力を入れていたという見立てもできるが、当時「声優は恥ずかしい」「顔出しできない役者が声優をやる」というようなネガティブな印象が強かったという。
また、『声優』という言葉もなく、声の仕事をしている事は隠すような風潮だった。
そんな中でもテアトル・エコーでは、熊倉、山田、納谷の3名は「ギャラ袋が立つ」と言われるほど稼いでいた。その一方、石井や田中が若手の頃に出演した際のギャラは1回2000円だったという。
田中は『こち亀』に一度だけ、石井は『ワンピース』に出演無し。そのワケは
石井はアニメ『こちら葛飾区亀有公園前派出所』(フジ)の主人公・両津勘吉の声を6年担当。しかし、ギャラは一度も上がらなかったと告白。あまりの安さに驚いたが、担当者からは「石井さん、これでも(声優界では)一番高い方なんです」と言われたという。
田中も『こち亀』には両津勘吉の少年期の声で出演。『トンチンカントリオ』という両津とその友達2名の配役に、田中の他、『タッチ』の浅倉南役で有名な日高のり子、『サザエさん』のカツオ役を務める富永み~なが起用され、豪華な配役となった。
だが、製作費の都合なのかその時だけとなり、以降はアニメの担当者に言われ、石井が少年期の両津も担当することになってしまった。
実は以前、石井は『ワンピース』に「1話だけでも出たい」と田中に相談。しかし石井のギャラを考えると…となっていると、石井から、「いいよ。お前(田中)と同じギャラで」と譲歩されたが、田中は「石井さん、声優のギャラは安いけど、私、声優の中では高い方なんです」という事情で話が無くなったそうで、これは東映の中で笑い話になっているという。
スタジオジブリの製作現場
石井は『もののけ姫』のドキュメントを観て、大御所俳優・森繫久彌が宮崎駿監督にリテイクを要求されたり、知り合いの俳優・菅原大吉が「よう!」と声をかけるだけのセリフで1時間近く掛けられることに驚き、スタジオジブリ作品『天空の城ラピュタ』の主人公の少年・パズーの声を担当した田中に、宮崎駿について質問。
当時『ラピュタ』で、田中のオーディションは5次審査まで行われ、最終審査では、シータ役のよこざわけい子と宮崎監督と3人で1つの部屋に入り面談。そこで監督の宮崎からの第一声が、公言もされている有名な言葉だが、「私は声優の芝居が嫌いです」と言われたという。
ただ、田中もプロの声優として役者として、監督の言いたい意味は理解しており、その上でアニメにはリアクションで見せるような“説明的芝居”も必要であるというジレンマがあった。
宮崎監督は自身の作品を「アニメ」とは言わずに「映画」と言い、この作品において説明的な演技は要らないと田中は理解し、普通にお芝居するように心掛けて臨んだという。
しかし田中自身、長年の声優生活からか、最近でも舞台でお芝居をする時に“説明的芝居”をしてしまうクセがあるようで、ある演出家から「マユちゃん、音はすごく良いけど、体が付いてってないから…」と注意されてしまい、声優のクセはなかなか抜けないと語った。
そして『ラピュタ』のアフレコ現場では、田中が監督の意図を思い違いし、芝居に迷いが生まれた際、監督から、「今日はここまでにしましょう」と言われ、帰ってゆっくり考えて、翌日再開した。その余裕のある制作現場は、締め切りのあるレギュラー番組では考えられないと石井は驚いた。
スタジオジブリ作品には声優よりもテレビに出演するスター俳優が多く起用されるイメージだが、当時の宮崎はまだギャラの安い声優を使う予算しかなかった。後に日本テレビ放送網が制作協力をするようになってから予算が増え、テレビで活躍するスター俳優を起用できるようになったとか。
『サタプラ』の天の声は
田中は現在(放送当時)、アニメ『ワンピース』(フジ・ルフィ)と『忍たま乱太郎』(NHK Eテレ・きり丸)の声優、『辰巳琢郎の葡萄酒浪漫(ワインロマン)』(BSテレ東)のナレーションと『サタデープラス(サタプラ)』(MBS)の天の声をレギュラーで担当している。サタプラはMBSのある大阪のスタジオに、東京のナレーションブースから画面を観ながらリモートで声をかけているため、ラグが発生して難しいという。